北岡大使,当地新聞に寄稿(タジキスタンと共に歩む日本 ~秋野豊氏没後20年に想いをはせて~)
平成30年7月19日

タジキスタンと共に歩む日本 ~秋野豊氏没後20年に想いをはせて~
駐タジキスタン日本国特命全権大使 北岡元
タジキスタンの方々は日本と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
寿司、サムライ、着物などの伝統文化でしょうか。 それともロボット、新幹線、アニメといった、最新技術やポップカルチャーでしょうか。
「日出づる国」とも呼ばれる日本は、タジキスタンからは遠い東に位置し、皆様には馴染みの薄い国かもしれません。しかし、実は古くからの友人であることをご存知でしょうか。
シルクロードの要として知られる中央アジアは、2000年以上の昔から人々、商品、文化が往来する「ユーラシアの交差点」でした。世界中の文明や文化がタジキスタンを含む中央アジアを経由して東西南北に伝播しました。日本の古都奈良には皇室の宝物を収める「正倉院」があります。そこには,遥か西方から中央アジア・中国を通じ、海を渡って伝来した楽器、衣服、刀剣、食器などが今でも大切に保管されています。シルクロードの東端は中国長安(現在の西安)と思われがちですが、実は更に東の日本の古都奈良まで、その道は続いていました。近年の研究では、日本に伝来した品々の一部はソグド人によって作られた可能性や、ソグド人が日本にまで来ていた可能性が指摘され、更なる研究が進んでいます。日本人にとってタジキスタンは、シルクロードを辿った当時の人々の足跡に想いを馳せ、ロマンをかきたてられる場所の一つなのです。
1991年にタジキスタンが独立を果たした際、我が国は即座に国交を結び、以来、この「古くて新しい」友人の新たな国づくりを支えるべく、様々な協力を行ってきました。その国づくりの過程で,タジキスタンの国民和解に尽力し当地で命を落とした日本人が居たことをご存じでしょうか。明日は,秋野豊国連タジキスタン監視団政務官がタジキスタンで亡くなって20回目の命日となります。ここに秋野豊氏に想いをはせ,その功績と平和の尊さを,タジキスタンの皆様と共に振り返りたいと思います。
ロシア・東欧・中央アジアを専門領域とする国際政治学者であった秋野豊氏は,1998年7月20日、現ヌロボド郡において3人の同僚とともに不幸な死をとげました。享年48歳。日本の筑波大学で教鞭をとっていた秋野氏は,その専門知識と語学力に着目した日本政府からの依頼に応じて,国連タジキスタン監視団(UNMOT)政務官として当地に着任し,PKO活動に従事していました。
現サングウォル郡所在の「青い湖」の湖畔で反政府勢力との交渉を終えた秋野氏は,現ヌロボド郡の山岳地帯を国連車両で走行中,武装集団による待ち伏せを受け,シェフチク少佐(ポーランド),シャルペジ少佐(ウルグアイ)の両軍事監視員、タジク人のマフラモフ通訳兼運転手とともに凶弾に倒れました。
秋野氏は日本では「行動する政治学者」として知られ,研究室に籠もらず,ラグビーと柔道で鍛えた体を活かし,現場に赴く形での研究を重視していました。当地での活動においても,現地住民との交流を大切にし,そのユーモアあふれる性格もあり皆から愛される存在でした。秋野氏は亡くなる2ヶ月前,タジキスタンから日本の知人へ以下のメールを送っています。
「雨の日が多く,恐れていたほど暑くありません。これは問題です。なぜなら日本政府は私にシルクロードの平和と繁栄に向けた日本の貢献は金だけではないことを示すため,汗をかくように期待しているからです。-中略-汗をかくことこそ私の最も得意とするところです。私は『飛び廻る国連政務官』になるつもりです。」
ユーモアを交えながらも,その文面から窺える同氏の大きな使命感を前に,目的半ばで命を落とされた無念さを思うと,私は痛惜の念を禁じ得ません。
生前の秋野氏を知る人々は,口々に「秋野氏は,行動する教育者でもあった」と評しています。同氏は,学者として知識を学生達に伝えるだけにとどまらず,明日を担う若者を育てることに全身全霊を注ぐ真の教育者だったそうです。秋野氏の死から20年がたった現在,タジキスタンには平和が訪れ,若者が活躍できる社会が訪れています。秋野氏が教育者として後生の人々に残してくれた意思をくみ,日出づる国はこれからもタジキスタンの人々とともに,輝ける未来を描いていきます。
日本政府を代表して,タジキスタン和平のために身を捧げた秋野豊氏,アドルフォ・シェフチク氏,リシャールド・シャルペジ氏,ジュラジョン・マフラモフ氏,さらには内戦で犠牲となった全ての人々に,衷心より哀悼の意を表します。
1) Asia Plus
2) Faraj
http://faraj.tj/index.php/tj/hukumat/17117-opon-amesha-bo-mardumi-to-ikiston-peshsaf-ast.html (Tajik)
3) Sugdnews